おいなりさんの童話「影踏み」 千邑径行(ちむらけいこう 浜口 久)

 このおはなしは、片田の浜口 久(千邑径行)さんが、稲荷さんとキツネの関係を子供達のわくわく、どきどきの夢を育てたいという作者の願いがこめられています。まどかぴあ図書館に全国から届いた、心ときめかせるショートストーリーコンテスト受賞作晶です


 おはなし


 満月のきれいな晩でした。明日はうれしいお稲荷さんの縁日です  勇也くんと仙吉くんが俊太くんの家に遊びにきました
 玄関の外で、「俊太くーん」と呼ぶ声がしました。小さな声でしたが、俊太くんには、はっきり聞こえました。

 「何や、なとしたんや」、いっしよにテレビを見ていたお父さんは、俊太くんが急に立ち上がったのでびっくりしました。

 「勇也らや」
 「何や、こげな夜さりに」
 俊太くんは玄関に行って、ドアを開けました。二人がにこにこ笑って立っていました。
 月の光のせいでしょうか、ズボンが大変白く見えましたもちろん、シャツも真っ白でした。
 「あそぼや」と二人は声をそろえて言いました
 「えっ、こげな夜にか」と俊太くんが不審げに言うと、二人の目が一瞬光りました。

 俊太くんは吸い出されるように、庭に出ました。庭には銀色の月の光が照り輝いていました。
 稲荷さんの森も黒い影絵でした。
 勇也くんが面白がって、俊太くんの影を踏みました。俊太くんがお返しに、勇也くんの影を踏もうとすると、ぴょんと逃げました。
 「ようし」と言って、こんどは仙吉くんの影を踏みにいくと、仙吉くんの影もぴょんと飛びのきました。
 三人はしばらく、影を踏みあいこをして庭を走りまわっていましたが、やがて勇也くんと仙吉くんは浜へ走っていきました。俊太くんは後を追っかけました。
 三人は、銀色の砂の上を思うぞんぶんに駈けまわりました。三人を応援して、波がバシャンバシャンとなぎさを打ちました。
 母さんは俊太くんがいつの間にかいなくなったので、心配しました。
 勇也くんの家に電話をかけてみました。そしたら、勇也はおりますけど、俊太くんは来ていません、と言われました。
 仙吉君の家にも電話しました。仙吉くんの母さんも同じようなことを言いました。
 俊太くんの母さんは浜へ行ってみました。俊太くんは二匹の白い犬、いいえキツネでした。キツネを、キャッキャッと言いながら追っかけていました。
 「シュンター」母さんは呼びました。俊太くんが立ち止まって母さんの方を見ているひまに、二人の姿は消えていました。俊太くんは急いで稲荷さんへ行ってみました。
 そして、赤い鳥居の両側に座っている、石のキツネを見ました。
 足に砂がついていました。


 おわり



万延の俳諧師・楽舟子(らくしゅう)

 楽舟子常に乗ることを楽しみおられる処、この春都(江戸)に下るとて難風に出逢い、東の波のしづくと消えにしものを舟子共に言信を聞かず。さるによって、過ぎにし年当社稲荷神社に奉納されたし「連句春になって」、という題に附句を附せられ、神都何某翁の口で、天地人のうちに撰せられしを、懇意の輩なつかしさのあまり、子(楽舟)の名を残したまま改めて茲に記しぬ


題 春になりて

 気長くものばす凧の糸

楽舟

 見出しては泪の種の返り咲き

有之

 志まの日や思い出しては海の面

氏眠


 万延元年(1860年)甲冬・・・・誌してあり、片田にいたりて句を揚げて海上安全を祈願すると共に、故人を現世に導き給えかしと祈る気持ちをとどめている。(由来記)